小説書いったー

2022年5月28日に作成 #趣味
420文字以内の小説を書きたい読みたい人向け
・一次創作のみでお願いいたします。
・ジャンルは冒頭か返信部分に書くとわかりやすいですがなくても問題ありません。

※現在、改行を使った420文字小説の場合、文字数オーバーでエラーが出るようです。
お手数をおかけしますが、文字数だけではなく改行も1文字とカウントして420文字以内になるよう調整して頂けると助かります。
このTterはアーカイブのみ閲覧できます
  • 今から僕は彼女と結ばれる。一目惚れしたのが運の尽きだった。
    惚れた弱みで強く出れず、振り回されてばかり。だって、瞳がとても綺麗なんだ。あっさりと交際を受け入れられて有頂天になる反面、この幸せを失いたくない気持ちで一杯になる。不安になる僕に彼女は「ずっと一緒だよ」と寄り添ってくれた。
    愛しい、愛しい、愛しい。
    彼女と過ごす初めての時間。最期の時間。
    「ずっと一緒だよ」
    当たり前だ。僕は彼女の栄養になるのだから。
    輪廻転生があるのなら、次はカマキリじゃなく人間という生き物になりたいなぁ。
  • 銀色の日傘が太陽光を跳ね返す。おれは日陰の中にいる。おれが歩いても、日陰はおれについてくる。日傘は従順なしもべだったし、おれは日陰の陰に満足していた。
    が、あるとき日傘が言った。「自分だけ太陽の直射を受けているのは不公平じゃないですか?」
    「いや、おまえの役目は太陽の直射を受け止めることだろう?」
    「そういうのは、コンプライアンスに反しています」
    コンプライアンス。そういうものもあったのか。時代に対してアップデートが必要だ。おれはアップデートすべきだった。
    そしておれは、日傘を裏返して、ぶら下げて歩く時間を作ることにした。おれが陰を作って、日傘を直射日光から守る。おれを見て奇異に思う人もいることだろう。しかし、おれは日の光を浴びながら時代の最先端を歩いているのだ。だれもおれを笑えない。
  • 「何を考えているんですかっ!?」
     凄まじい剣幕だった。植え込みに身体を沈めたまま、俺は小さく「ごめん」と呟くことしかできない。
    「幽霊になるのも才能が要るんですっ! 貴方みたいに、こんな……こんな馬鹿なことをする人、絶対に無理に決まってますっ!」
     ぐうの音も出ない。事実、屋上から飛び降りたにも関わらず、こうして擦り傷程度で済んでいるのだから、きっと彼女が言うように俺には才能がなかったのだろう。仮に成功していたとしても、彼女のようにふわふわと浮かぶことすらできなかったかもしれない。
     彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。俺に才能があったら、それを拭うことができただろう。だが、そんなことをしても今以上に彼女を悲しませてしまうだけだと、俺はもう知ってしまった。
     植え込みの中で大の字になったまま、ぼんやりと夜空を見上げる。
     嗚呼、今夜も月が綺麗だ──。彼女の嗚咽を聞きながら、俺はゆっくりと瞼を閉じた。
  • サモエドという犬種がいることを知ったのはいつのころだったか覚えていない。漠然と大人になったらサモエドを飼おうと思ったことだけ覚えている。サモエドがどんな大きさで、どんな色で、人に懐くのかどうかも知らなかった。ただ、サモエドという語感に惹かれた。
    ずいぶん月日が経った。あるいは、そうでもないのかもしれない。自分も犬を飼えるだけの場所やお金を手に入れた。いよいよ自分もサモエドを飼えるのだと思った。思って、ペットショップに行き、「サモエドを下さい」と言った。
    「こちらの仔はどうでしょう」と見せられた犬は、自分の中のサモエドと違って、なにか、普通の、犬だった。「思っていたのとは違うので、やめます」とは言えなかった。
    自分はいま、サモエドを飼っている。サモエドを飼っているといえるかどうかわからないけれど。
  • 君は恐ろしく整った顔をしていて、やけに耳触りの良い声をして、いつだってきらきらと笑っている。砂嵐のような言葉の渦の中でもその声は良く通るのだから、いつか地獄の淵に立っても君の声だけは天上から聴こえるのかもしれない。
    そんなことを本気で考えるほど君はどこをとっても僕に好ましく出来ていたので、もしかしたら君は人間では無いのかもしれない。だからアメリカなんぞには行かないほうが良いと思う。
    「その心は?」
    「……留学なんて寂しいよ」
    便利な世の中で良かった、向こうに着いたら電話するよと言った。実に呑気なものである。電話口で僕だけ老人になってしまうかもしれないのに!
    嘆く僕を見て、君はとうとう崩れ落ちるように笑った。
    「君にかかると冥王星もすぐそこだ」
    ……銀河系ジョーク?やっぱり君は人間じゃないのかも。そうでも僕は一向構わないが、国家組織とかが放っておかないかもしれない。
    慌てて買ってきた交通安全のお守りが、君の生きる道をも護ってくれるといいんだけど。
  •  新しい腕時計を買った。店を出る時に、店主が「その時計には時を刻む機能が付いていますよ」と微笑んだ。その時は、随分と洒落た物言いをするものだな、としか思わなかった。
     しばらくして、俺はあることに気が付いた。腕時計の一から十二までの数字、その全てに切れ込みのようなものが付いているのだ。何となく弄っていると、十二と一の間がぽとりと床に落ちた。それからだ。俺の中の一時間が消え失せたのは。十二時を迎えると、次の瞬間には一時になっている。同僚にそれとなく聞いてみたところ、周囲からは俺がきちんと昼休憩を取っているように見えるらしい……が、俺にはその間の記憶も感覚もない。
     恐ろしくなった俺は店に駆け込んだ。店主に事情を説明し、元に戻して欲しいと懇願する。すると、店主は困ったような顔をしながら「それは無理です」と言い、こう続けた。
    「最初に言いましたよね。その時計は時を刻む、と。バラバラに刻まれた時間を戻すことなんてできませんよ」
  • たかが数円のざらめじゃないかと言われたら反論出来ないわけだけど。
    毎年足を運んで、買うものと言えば毎回同じだ。いちご練乳のかき氷、フライドポテト、クレープは生クリームで。それでもふらふらと
    混み合う通りを二往復くらいした。私は歩くのが遅いからそうしているうちに日が落ちている。
    だからもう花火の時間よ。私は食べかけのクレープ片手に川沿いのほうへ寄って空を見上げた。静かなんだか賑やかなんだか分からない、遠巻きの喧騒が不可思議に満ちている。
    きぃーっと金属が軋む音に振り返ると鉄橋の上で電車が緩やかに停車していた。いつもはけたたましい音を立てて通り過ぎるそいつが同じように花火を見つめているのを眺めていると、何故か私はちょっと泣きそうになる。いつも。
    たかが数円のざらめじゃないかと誰かが言っても、あの小さい砂糖粒がこんな風に膨らむのだから魔法みたいで愉快じゃないか。と。
    お賽銭気分で五百円玉を渡して、提灯代わりにぶら下げながらのんびりと帰路についた。
  • 「HERO」
    彼は全てのものを持っていた。
    どれも私には無いものだった。
    強く、優しく、格好良く。
    その勇姿に、私はいつしか彼の事を追い掛け、恋に落ちていた。

    しかし、彼は全てのものを持っていた。
    当然、彼には彼女が居た。
    彼は彼女と結婚して子供も生まれ恵まれていた。
    それでも、彼が幸せならば。
    私も幸せだった。

    けれども。

    やがて、彼は全てのものを失った。
    彼は、ずっと夢を追い続けていた。
    彼女には、結局理解し得ないものだった。
    故に、彼女は子供を連れて去って行った。
    それを聞いた私も悲しかったけれど。
    もし私が彼女だったら。
    きっと同じ事をしていただろう。

    それでも。

    私にとっては、彼はヒーローのまま。
    他には何も無くても、彼が其処に在るだけで。
    私はずっと彼を追い続けていくだろう。
    例え彼が突然生涯を閉じたとしても。
    私は彼の軌跡を伝えていくだろう。

    彼が居たから、私はこうして此処に在ると。
    彼には伝わらなくても、彼が居たから此処に居られたと。
    誰かの心に届くのならば。
  • 「貴方の心臓が欲しい」
    「貴方の目玉も、鼻も、口も」
    「手も、足も、全部欲しいの」
    長い睫毛が揺れて、ポロポロと落ちていく涙は透明だった。
    平日、昼間。喫茶店にて、向かいに座る姿は見慣れていて、親しくはないものだった。
    俺が引っ越す前から隣の部屋に住んでいて、時折挨拶を交わしていた程度の関係だった。
    「……貴女は、誰ですか?」
    多分、適切な問いではなかっただろう。
    だが、俺の手を引いて走り出した背中に、普段は馬の尾のようにしている髪が広がって揺れるのを見て、これは誰だろうかと思ったのも確かだったのだ。
    店員が気まずそうに置いていった珈琲を啜りながら相手の言葉を待つ。
    「もしかして俺を喰うんですか?」
    まさか漫画じゃあるまいしと思いながらも訊いていた。
    首を、振る。口紅を引いていなくても赤い唇が笑った。
    また、落ちる涙。
    「すき……すきなの、おねがい……」
    何を願われているのか分からないまま、俺はもう引き返せない所にいたのだろう。
  • 「ねーなんで人の顔も名前も覚えようとしない私と仲良くしてくれるの?」「だって顔手術しても気付かないじゃない?だから好き!」
  • サイモン・ハロルドはベリーベリー州の議員選挙に立候補した。所属する政党もなければ、有力な支援団体もなかった。それでも、サイモン・ハロルドはお金持ちや伝統的な名家、高い学歴を持った人間だけが政治をするのはおかしいと思った。
    サイモン・ハロルドは印刷工として働いてきた全ての貯金を払って選挙活動をした。家族、親類の誰も応援しなかった。
    サイモン・ハロルドの選挙は失敗に終わった。金持ちや労働団体の代表たちに大きく差をつけて落選した。
    サイモン・ハロルドはすべてを失って、川辺に座ってただ川の流れを眺めていた。
    ひとりの少女が駆け寄ってきて、「あげる」といってシロツメクサの花を差し出した。
    サイモン・ハロルドは声を出さずに泣いた。
  • 「すきだ」
     またか……。そう思い、私は小さく溜息を吐いた。
     この高校に赴任してから約三年。ようやく仕事にも慣れてきて、恋人との関係も良好そのもの。まさに公私共に絶好調……の、はずだった。彼という悩みの種が現れるまでは。
     彼は、私が初めて受け持ったクラスの生徒だ。成績も素行も決して良いとは言えない。所謂、問題児である。それだけならまだ良い。私を最も悩ませているのは、彼が私を呼び止める度に「すきだ」と口にするところだ。
     勿論、何度も注意した。彼にとって私は教師であり、私にとって彼は生徒である。年齢だって十歳くらい離れている。教師と生徒、歳上と歳下。だが、いくら説明しても「歳なんて関係ないだろ」とでも言いたげな顔をして、一向に聞き入れてくれないのだ。
     今度こそ、お互いの立場を分からせなければ……。そう思い、私は彼の顔を真っ直ぐに見据えた。
    「だから、何度も言ってるけど……」
    「あ?」
    「先生を付けなさい!」

    掌編小説「隙田先生」
  • サブリーダーはリーダーの座を狙っていた。リーダーはかっこいいが、サブリーダーはかっこよくない。サブというところから、三郎みたいな感じもして、あまりよくない。下っ端感がぬぐえない。
    そういうわけで、サブリーダーはリーダー殺しをくわだてた。計画は万全だった。あとはサブリーダーはリーダーの胸にナイフを突き立てるだけだった。
    しかし、サブはそれができなかった。自分がいかにサブか、リーダーでないのか悟った。そうして、ナイフを震えた手で持ったまま数十分。リーダーは目を閉じたまま言った。「朝食はなにか?」
    サブは涙を流しながらその場を去った。ナイフ一本残して、その場から逃げ去った。
  • 美味しいごはん

    栄養満点の給食。授業でクラスメイトと工場へ感謝の作文を書く。いつもありがとうは本当の気持ち。作文は代表になった。ただ、僕には美味しいかわからない。

    学費稼ぎに友達と飲食店バイト。万人受けする調味料、世界共通の味。インスタ投稿で給与アップ。ただ、僕には美味しいかわからない。

    取材で通うレストラン、星付きでネット評価抜群。好きな人と想い出の演出効果抜群。繊細な包丁裁き、限定食材。この日のためにお金をためて来た人たち。ただ、僕には美味しいかわからない。
    同僚とストレス解消に良い山籠りツアー。修業と肉体労働の後のお粥、具がない味噌汁。

    翌朝会社に戻り報告。
    「昼、つきあえな?」
    同僚との昼休み、誰もない会議室。渡されたオニギリ。
    「昔から金稼ぎしか頭にないんだから。取材もいいけどな、ちゃんと食えよ?心配で作ったんだぞ?ほら、お前の分。

    僕は初めて食事をした。僕には美味しいかわからないが、涙が溢れた。
  • 私の親は勝手に私宛の手紙を開けて中身を見てしまう。「家族でもそれは犯罪なんだよ」と咎めても、その場では謝るけれど次の日にはもう開けている。日記にプレゼント、宅配物、冷蔵庫のプリン、とにかく私の名前が書いてある物はなんでも開ける。

    腹が立った私は、溶接の国家資格を取得して買ってきた金庫を溶接して自分の名前を書いてやった。これは流石に開けられまい。そう思ってほくそ笑む。

    数日後、振動工具取扱安全衛生教育を受けた母がドヤ顔でチェーンソーで金庫をこじ開けた。そこまでやるか…?次は金庫を溶接して海に沈めるしかないな…。船舶免許でも取るか。
    仁義なき戦いはまだまだ終わりそうにない。
  • ぶらぶらと街を散策していると、ノスタルジックな店構えの洋食屋を見つけた。ショーウィンドウにはやや色褪せたオムライスやロールキャベツの食品サンプルが飾られ、店先の黒い看板には白い字でカキフライの文字が書かれている。

    昔から街の人に愛されてきたであろう飴色の扉を開けば、呼び鈴が小気味良い音をならす。小さな店内を見渡すと愛想の良さそうな女性が笑顔で迎えてくれた。キッチンには気難しそうな壮年の男性シェフがパリッとしたコック姿で調理をしている。

    さて、どれにしようか…『洋食屋のナポリタン』『デミグラスソースのオムライス』『北海道産帆立のクリームシチュー』など食欲をそそられるメニューばかりだ。私は手をあげて注文を済ませると、店内のかぐわしい香りをかぎながら料理が来るのを待った。

    「お待たせ致しました。ご注文の『メロンソーダ』と『昔ながらのカレー』をお待ちしました!」

    カレーがやたらデカい。
    私は嬉しい誤算にニコニコしながら料理を味わった。
  • ビルの前で倒れている老人がいたので、「大丈夫ですか?」と声をかけて、水を飲ませると、「若いの、助かった。これをやる。いつか役に立つ」といって、見たことのないコインをくれた。
    それから十数年、今度は自分が飢えて、乾いていた。もう金はない。ただ、あのときのコインがあった。自販機に入れてみた。すると、全てのボタンが点滅し始めて、ルーレットが回転する。
    7.7.7.
    ……6。
    自販機は静かになって、すべてのランプは消えた。
  • 「外に出たい」
    四角い窓に抜き取られた平凡な景色を、まるで美しい絵画でも見ているかのように目を細める。
    「きっと素敵でしょう。太陽の下を好きなだけ歩けたなら、誰だって幸せになるはずよ」
    「四季折々に表情を変える花たちを、いつか写真に撮ってみたいの」
    「たくさんの人と出会って、たくさんたのしいおはなしをしてみたいわ」
    外の世界に夢を抱く彼女は、その欠片にさえ触れられないままその生涯を終えようとしている。
    彼女の「無知」というフィルターのかかった外の世界はいつでも美しく、希望に満ち、溢れんばかりの陽光を持って輝いていた。
    彼女は知らない。
    外の世界は希望よりももっと薄汚れたもので溢れ、人間はいつだって心の中にドス黒い何かを飼っている。
    たとえ彼女が夢を叶えたとて、抱える純真な願いは現実で汚れてしまうだろう。
    彼女の夢が黒く姿を変える前に、命の日が消えてしまうことを、喜ぶべきか、悲しむべきかも分からないまま。
    今日も今日とて、彼女の夢を否定できないでいる。
  • 海が見たいの、と彼女が言った。
    海ならここから見えてるじゃないかと言うと、彼女は首を振る。

    違うの、こんな重くて暗くて悲しい海じゃない。
    明るくて美しくて透き通るような海が見たいのよ。

    柵に手をかけて外をじっと見つめている彼女の目には、たしかに青く青く光を放つ優しい海が映っているような気がした。