• 報われない物語の美しさ。
    起から始まり、承であがって、転で転がり、結びは絶望。
    読んだ人の心に、消えぬ穴となんとも言えない悲しみを残してその物語は幕を閉じる。
    忘れられない物悲しさは半永続的に読者に記憶され、その情景は喜びや楽しさの感情よりもより簡単にリアルに浮かび上がる。
    自分にはそんな物語が書ける。
    潰えぬ虚無と、リアルな情景の中にぽつんと取り残される主人公の深い悲しみをより美しく彩る文章が。
    けれども、たとえ己の筆がどれほど美しい文を紡ごうと、それが選び手の目にかなうとは限らない。
    美文を連ねた紙はまたしても本にはならず、あくまで自らのコレクションと成り下がる。
    それでも自分はまた文を連ねる。
    自らに取り憑いた虚無が私に飽きるまで。
    私はいつか私の物語に溺れ溺死するやもしれない。
    それこそ美ではないか?
    それもまたひとつの虚無ではないか。
    私の人生を犠牲に連ねる私が主人公の物語。
    終わらぬ自己陶酔に幕を下ろすのは、取り憑いた虚無やもしれない。
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