• 「――君との婚約は破棄する」
    凛とした声が宣言した。
    シャンデリアの光を受けて輝く銀髪は、彼が神の御使いである証拠だ。まだ年若いながらこの国の皇太子としてその瞳は確かだった。
    「殿下……」
    「ああ……、ごめんよ。僕の君」
    大人しく頷くべきだった。なのに、震える喉は未練がましい声を出した。
    この日の為に仕立てたドレスの胸元を握る、その手を殿下の手が包んだ。
    「君は素晴らしい女性だ。例えこの国が滅びる未来があろうと僕と共に在ると誓ってくれた……」
    だからこそだよと眉を下げて、幼き頃から変わらない優しくも少し切ない笑顔を浮かべる。
    二人きりのボールルームはただ、静かだった。
    「……嫌、嫌ですわ殿下。わたくしの幸せは貴方のお傍にしかないのに酷いことを仰らないで……」
    子供のように泣き縋る。それを控えていた騎士に時間切れだと言わんばかりに離される間際、確かにその声を聴いた。
    「……ずっと、愛しているよ」

    ――国が亡びたと聞かされたのはそれからすぐの事だった
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