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「おれもそう思っていたんだ!これが一番いけないんだ。こんな愚にもつかない、ちょいとしたくだらないことが、よく計画をぶちこわすものだ! そうだ、この帽子は目に立ち過ぎる、おかしいから目に立つんだ……おれのこのぼろ服には、どうあっても、たといどんな古いせんべいみたいなやつでも、学生帽でなくちゃいけない、こんなお化けじみたものじゃ駄目だ。こんなのは誰もかぶっちゃいないや。十町先からでも目について、覚えられてしまう……第一いけないのは、後になって思い出されると、それこそ立派な証拠だ。今はできるだけ人目に立たぬようにしなくちゃ……小事、小事が大事だ! こういう小事が、往々万事をぶちこわすのだ……」 -
通りすがりに「やあい、このドイツしゃっぽ!」といきなりどなって、手で彼を指さしながら、のどいっぱいにわめき出したとき——青年はふいに立ち止まり、痙攣したような手つきで自分の帽子を抑えた。それは山の高い、チンメルマン製の丸形帽子だったが、もうくたびれ切ってすっかりにんじん色になり、穴だらけしみだらけで、つばは取れてしまい、その上つぶれた一方の角が、見苦しくも横の方へ突き出ている。しかし、彼を捕えたのは羞恥の情ではなく、全く別な、むしろ驚愕に似た気持だった。
「おれもそんなことだろうと気がついてたんだ!」と彼はどぎまぎしてつぶやいた。