• 「君の書く物語は…なんというか、こう…ああ、あれだよ、胸に響かない!胸をぐっと打たれるような、痺れる物語こそ、人は欲するものなんだよ」
    人が精魂込めて文章を書き連ねた原稿の束を、男は雑にもバサバサと振り回しながらそう宣った。
    自分からすれば宝のようなそれを、話の合間合間に上下に揺すられる度、原稿からボロボロと言葉が落っこちていくような心地になって、そちらばかりに目が行ってしかたがない。
    胸を打つだの痺れるだのと抽象的なことばかりをぺらぺらと発する口に、その辺で売ってる国語辞典でも突っ込んでやりたいような気分になる。
    徹夜明けで揺れる視界を定めようと努めたその時、視界の端に文字が映った。
    塵のように散らばった文字は正しく自分の原稿から零れ落ちたものだ。
    気の所為ではなく、実際に落ちていたのだ。
    大事な言葉達が埃のように振り落とされていく姿を前に、冷静さを欠いた。
    近くにあったペンを手に取り、男の胸を目掛けて振り下ろす。
    …ほら、打ちましたよ、胸。
返信の受付は終了いたしました。