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紀州に伝わる妖怪桂男にちなんで書きました。 -
旅先で聞いた不思議な話。
その地域には月を眺めると寿命が縮むという言い伝えがあるらしい。
夜、私は海沿いを散歩に出かけた。
空には半月が白く浮かんでいる。静かな夜の海辺から見上げる月はよく澄んで見えた。
綺麗だ──。
暫くぼうっと眺めて、ふと視線を落とす。
するとそこに男が立っていた。
先刻まで居なかったのに。
遠目に見ても分かるほど美しい顔立ちをしている。月のように色が白く、人形のように生気がない。
男はこちらを向いて微笑み、ゆっくりと手招きをした。
ゾッとした。
呑まれそうな気配を本能で感じ走って逃げた。
宿で仲居さんに話すと、妖怪ですかねぇと笑った。
月を眺めていると美男子の妖怪が現れ、手招きに応じると寿命が縮む……という伝説があるそうだ。
件の不思議な話の元ネタだ。
仲居さんは見間違いか誰かの悪戯だと笑うが、私は確かに只ならぬ妖気を感じたのだ。
旅先の非日常感と月夜がそう錯覚させたのか?
不安を抱えたまま私は寝床についた。