• 「ため息をつくと幸せが逃げる」
    暖かな風呂につかりながらため息をついた時、ふと頭をよぎった言葉。
    逃げるような幸せがあるなら、ため息などつくものか。
    ひねくれた思考でその言葉をおしのけ、俯いた顔を上げると、目の前に泡があった。
    ちょうど口ほどの大きさの、中にふわふわとした柔らかいものが浮かぶ泡。
    ―逃げた?
    どんどんと薄れゆくそれを咄嗟に飲み込む。
    たった今起きたことが信じられないまま呆然とした。
    試しにもう一度ため息をつく。
    なんの感覚も無いまま、でも確かに口から泡が飛び出した。
    また飲み込む。
    そして次は自分の人生を振り返る。
    これまで幾つため息をついてきた?
    一体幾つの幸せがこの口から逃げ出した?
    自ら追い出した幸せの重みが今更のしかかったように感じて、温めた体は底から冷え切った。
    「ため息をつくと幸せが逃げる」
    偉大なる先人の言葉は、無視するべきではなかったのだ。
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