• 一つの感情が別の感情や衝動に姿を変えることは決して稀ではない。
    例えば誰かを好きすぎるあまり、その「好き」が「嫉妬」や「憎しみ」を引き連れ惨劇を産むこともある。
    とにもかくにも、感情とは決して侮れぬ恐ろしい物であり、時にそれは過剰に人を害すこともあるのだ。
    人の倫理的思考を妨害し、冷静さを奪い、人を傷つける際の免罪符として扱われるそれに、一人の男は深い"恐怖"を覚えた。
    「人類はみな種の存続のため、そしてあらゆる争いを無くすために、感情そのものを捨て去るべきである」
    天才的な知能を持つその男は、「感情を消却する装置」なるものを開発し、上記の説を唱えた。
    しかし、この説に多くの人間が反発し、怒りという感情をつなぎに大きなまとまりとなった人類によって、彼は殺されてしまった。
    彼の失敗は明らかだ。
    人類を、"感情"を団結させてはいけなかった。
    その知能を持って、別の策を講じるべきであった。
    彼の中に巣食う"恐怖"は見事、彼の冷静さを奪ったのである。
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