• 「暗い話書きすぎって言いましたよね」
    「死のうと思うんです」
     編集の顔が引き攣り、さっきからずっとテーブルを叩いていたペン先が止まる。
    「…あの、パワハラとかそういう理由じゃないですよね」
    「はい」
    「でも、あの、死ぬとかそういうのはよくないですよ」
    「はい」
     はい、はぁ、はい。それだけ返してビルを出る。帰り道、いつものコンビニでしこたま酒を買う。去年も出てた紅茶味のクラフトビールに青りんご味のストゼロ。埃が積もったままのウイスキー。去年と違うのは店員だけだ。
     ストゼロを飲みながら歩道橋を上がり道路を見下ろす。流れ星のように走り去るテールランプは滲んで見えた。死ぬ勇気もなければ明るい話を書く勇気もない。
    「暗い話がなんだよっ」
     通りすがりの親子がビクッと肩を揺らし、慌てて階段を降りていく。
    「暗い話が悪いかよっ」
     中身が半分ほど残った缶を振りかぶって投げ捨てる。中身を飛び散らせて空を舞う姿は彗星みたいだ。
     綺麗だった。
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