• 「文章は形容詞から腐るのだ」。ある有名な小説家が言った。私はその言葉を自らに刻み、直接ものを書いてきた。たが、あの日、私が出会った人のことを、どう表現していいかわからなかった。いろいろの美辞麗句、形容詞や比喩が頭に浮かんだ。浮かんでは消えて、消えては浮かび。結句、浮かんだ言葉を私は捨て切ることができなかった。私は「歯の浮くような」言葉でできた恋文をあの人におくった。結果、幸運にも、私は最愛の伴侶を得ることができた。同時に、私の捨て去ったものは大きい。私は私の捨て去ったものをたまに思い返す。そして現実に戻る。