• 「あなたね、暗い話ばかり書きすぎなんですよ」
    「はぁ」
    「もっと前向きで明るい小説を書いたら? ハッピーエンドじゃないと売れませんよ」
    「はぁ」
     はぁ、はい、はぁ。それだけ返して編集室を去る。根暗な人間なのだから暗い話しか書けなくて当然じゃないか、とは言い返せなかった。俺は根暗でコミュ障でぼっちで陰キャのチー牛なんだよ。八つ当たりがてら蹴り飛ばしたチューハイの空き缶が甲高い悲鳴を上げて道路を転がる。
     帰り道、コンビニでしこたま酒を買った。埃の積もったミニボトルのウイスキー、ダブルアセロラのストロングゼロに、紅茶風味のクラフトビール。味なんかどうでもよかった。どうせただバカみたいに飲み干すだけだから。
     ベランダに出て、つまみ代わりの味付け海苔を齧りながら夜景を見る。ストゼロはゲロみたいな味がしたし、ウイスキーはただ喉を焦がしただけだった。
     八つ当たりがてら投げ飛ばした空き缶は、無言のまま暗闇に消えていった。こんな都会じゃ星も見えない。
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  • 素敵です…!主人公の気だるい、やるせない感じがすごく好きです…
  • スレ主(2k6.QS)2022年6月7日
    返信先: @bWhAJVさん やったー、ありがとうございます!深夜のどうしようもなさを何とかしたくて書いたので、主人公にやるせなさが伝染したのかもしれないですね(?)