• 恋とは、もっと情熱的で落ち着きがないものと思っていた。
    恋などしたことがないものだから、他人が綴った主観的なそれしか知らず、まさか恋を教える師などいようはずもない。
    世間一般の語る感覚と経験の恋しか知らずにいたから、こんなバカをやらかしたのだ。
    あなたに恋人が出来たという。
    頬を緩め、瞳を溶かして、私を見るような素振りで遠くに恋人を描いている。
    どこにあるとも知れない"心"というものが、確かに音を立てて崩れ落ちた。
    あなたの傍にいればいつだって感じた心地良さも、安心感も、胸が暖かくなるような感覚も、何もかも感じない。
    心臓は落ち着かなく暴れ、悲しみ不安恐怖と、安心とは程遠いものが恋の代わりに居座った。
    身体を丸ごと氷に突っ込んだかのように全身が冷え込んで、握った拳がぶるぶると震える。
    立ち上がって周りも顧みず、自分勝手にあなたを罵れたらどんなに良かったか。
    叶わないと分かった癖に、まだ初恋にしがみついた私の口は、知らず「おめでとう」と吐き出した。
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