• 病院内の売店で見つけたオモチャの黒電話。古いドラマでしか見たことのない形のそれに目を引かれたのは、色が彼のスマホと同じな事と、添えられた紙に書かれていた言葉のせいだ。
    これは魔法の電話です。あなたが一番聞きたい人の声が流れます。
    魔法なんてある訳ない、理性が否定しても電話を買ったのは、それだけ心が追い詰められていたからだ。
    隔離病棟に入院している彼。病状は落ち着いたらしいのに、面会できるのは未だにご両親だけだ。
    会いたい、話したい、抱きしめたい、
    言葉と気持ちだけが募っていく。だから。
    部屋の机に置いた黒電話は、けれど今夜も沈黙している。
    「やっぱり、魔法なんてあるわけない、よね」
    オモチャを指で弾いた、途端。
    鳴り響いたのは彼のスマホの着信音。私のスマホではなく、確かに目の前の黒電話から流れている。
    私は震える手で受話器を取り、耳元にそれを持っていく。
    そこから流れてきたのは、懐かしい、本当に懐かしい、彼の肉声だった。
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