「ほんと、ありえない！」
私は兄に怒鳴りつけた。
「人の迷惑になることやって何が楽しいの？」
「迷惑って」
ヘラヘラ笑う兄が憎い。
「相互さんも他の同担のみんなも全員怒っているの。お前のせいで」
段々と口調が荒くなっていく。
そう、兄は私の推すアーティストグループの記念グッズを転売していたのだ。初の全国ツアーと5周年を記念したグッズは、かなり人気になると予想されていた。そのため、オンライン販売開始日はSNS上でピリピリしている同担が多く、私も開始時間の10分前からサイトに張り付いて購入準備していた。
「色々と教えてくれてありがとな」
そう、実は兄にこの記念グッズについて教えたのは私だ。元々、私は推しをよく家族に語っていた。この部分がいい、ここが尊いなどなど。その中で、全国ツアーのことや記念グッズのことを語った。兄が興味を持ったから教えてくれと自室を訪れたのはその夜。兄に魅力が伝わったと喜んだ私は、色々教えてしまった。人気メンバーからサイトの特性まで全て。所謂転売ヤーに成り下がった兄は、
「転売を悪く言っているけど、株と同じだよ。安いときに買って、高いときに売る。それに勝手に値段を決めているわけじゃない、オークションだからみんなが値段を釣り上げているんだ」
とかいいながら、笑っている。
「あ、もしかして自分の分が欲しかったの？いいよ、妹だから特別価格！定価でどうぞ」
まだ馬鹿にしたように発言する兄に、近くのクッションを投げて、部屋に戻る。下手に固いものを投げて、壊したら私の責任だ。決して、優しさなどではない。
部屋に戻った私は早速、SNSアプリを開いて投稿を作った。何度も推敲を行い、ついに出来た長文をスクショ撮ってハッシュタグと一緒に投稿。通知は消した。うるさくなるのは目に見えている。

--この度の【■■■■■】の5周年及び
初全国ツアー記念グッズの転売について--
私の家族が関わっていることが発覚しました。詳しくは下記の画像をご確認ください。大変申し訳ございません。