Tters

1spKBw スレ主 2025年03月

私は絵に描いたようなブラック企業に勤めている。パワハラ、セクハラ、サービス残業その他諸々。労基には盆と正月と結婚式と葬式が同時に来るよりかかわると忙しいとされている正にブラックリスト企業。そこで私は腐臭が出そうなほど限界まで上司達に使われていた。
辞めることも、この世を儚むこともできず
ただただ人生をすりつぶし続けていた。

そんな絶望的なある日、コンビニで廃棄直前の弁当を買い、少しでも帰宅を早めようと公園を突っ切っていた時、今の自分並みに弱々しい声を奇跡的に私の耳が拾った。普段ならもう疲労感でぼろぼろで聞き逃していただろう。だが、その日はほんの少しだけ、ミリ、いやミクロだけ余裕があったようだ。帰宅を急いでいた足はその弱々しい声がする方向へ自然と向いていた。

その先には薄汚れた小さな段ボール箱。中には弱りきった子猫が2匹横たわっていた。

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何とか無事に動物病院に着いた。私は病院に事情を説明し、子猫2匹を託した。「どうか助けてください!」と最近出していなかった大きさの声で伝えた後、深々と頭を下げた。医師と看護師はできる限りの事はすると言って子猫と処置室に消えていった。それを見送った後腰が抜けたように、私は待合室の椅子に座り込んだ。そして、走っていた時にコンビニ弁当が振り回されたせいでぐちゃぐちゃになっていることにようやく気付いた。「あっ…」温めてもらっていたので弁当の混ざった色んな匂いが待合室に漂ってしまう。待合室には自分しかいなかったのが不幸中の幸いか。スマホの時計を確認すると普段なら食事かシャワーを浴びながら寝落ちしている時間。だが、一切眠気が襲ってくることはなかった。子猫たちの無事を待合室で祈り続けた。

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私は医師と看護師に会社で強要されるよりも多い回数の感謝の言葉を述べた。医師はまだ急変の可能性もあると伝え、しばらく入院することを伝えてきた。私は了承し、もう一度深々と頭を下げ、2匹の事を頼んだ。会計を済ませ、帰宅前にもう一度2匹の顔を見る。先ほどより元気な姿で心底ホッとした。2匹に手を振り、私は帰宅の途についた。家に着いたのは夜明け近い時間。それでもなんだか私は満たされていた。弁当はもう原型をとどめていなかったが、私の腹におさまった。

次の日の、いや、その日の仕事はいつもより何故か捗った。上司の意味のない説教も先輩のセクハラも後輩の愚痴も何事もなくスルーした。それが気に食わないのかさらに仕事を押しつけられ、残業させられそうになったが、子猫の様子を見に行かねばと決意を漲らせその力なのか全て終わらせたので定時に上がる事ができた。上司達が何か言う前にオリンピック陸上選手並みのスピードで会社を後にした。

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動物病院に着くと、ちょうど食事の時間だったようで、看護師が子猫たちに哺乳瓶でミルクを与えていた。昨日より元気に鳴いている2匹を見て自然と笑みを浮かべていた。その事に私が1番驚いていた。昨日から死んだと思っていた自分の心が少しずつ甦っている。その事が嬉しくまた目に涙が浮かんだ。医師の許可が出たので子猫たちにそっと触れる。あたたかい。こんなにも小さいのに必死に生きているんだ。私はその当たり前の事実を噛み締め、医師に向き直り、今の自分の心のままに伝えた。
「この子たちを引き取る事はできますか?」

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その後からはとてもとても早く時が過ぎた気がする。まずは子猫たちを引き取る為の勉強、やってはいけないこと、保険や必要なものを医師たちから指導を受ける。

そして、会社に辞表を出した。上司は難癖つけて、受け取ろうとしなかったが、私は猫たちの為に諦めなかった。渋る労基に何度も何度も訴えかけ、味方につけた。
労基はしっかり仕事をしてくれた。
今までのパワハラ、セクハラ、サービス残業諸々。きっちりと調査をして(証拠は大量にあったし)ブラック企業を煮詰めたような私の元勤め先は崩壊し、綺麗さっぱり退職することが出来た。

退職金もたっぷり貰い、広めの部屋に引っ越した。猫たちの為の床の滑り止め加工、キャットタワーやペットカメラの設置、猫に害のあるものは部屋に置かないよう徹底。他にもおもちゃにベットに沢山準備をした。

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新しい仕事にも無事就くことが出来た。今まで勤めていた所とは全く違い、理想的なホワイト企業。定時に帰れる事が当たり前の素晴らしい会社。定時に帰れれば猫たちと過ごす時間が沢山とれる。有難すぎて思わず新しい上司をこっそりと拝んでしまったのは此処だけの話。

そしてやっと猫たちをお迎えする日。
キャリーケースを手に病院に着くと、
医師と看護師たちは猫たちにお別れの挨拶をしていた。その光景に少し心を痛めつつ、
猫たちに声をかける。ほぼ毎日病院に通っていた猫たちは私のことを覚えてくれている。
鳴き声をあげていた方の子は赤茶色の虎猫でオス。誰にでも積極的にかかわり、元気になりすぎたのがちょっとやんちゃ気味だ。
ぐったりしていた方の子は黒色の靴下猫でメス。少し怖がりな所はあるが、心を許した相手にはとても懐いてくれる。
どちらもとっても可愛い。私の心を取り戻させてくれた恩人…いや、恩猫だ。

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病院の皆との別れを終え、2匹を教わったとおりにキャリーケースにゆっくりと誘い込み、扉を閉めた。「淋しくなりますね…」あの時対応してくれた看護師がポツリと呟いた。私は「定期検診とかでこちらにお世話になりますからこれでお別れではないですよ」と心からの笑顔を浮かべた。看護師も釣られて笑ってくれた。
昔ならこんなやり取りは出来なかっただろう。
本当に猫たちには感謝しかない。
「そういえば、名前は決めたんですか?」
別の看護師が質問してきたので私は笑顔を2割増で答えた。
「茶色い子は『みたらし』、黒い子は『あんこ』です」
「お団子ですね?」
「はい、昔からの好物なんです」
勤め始めてからはそれすらわすれていた。
でも、この子たちと暮らすならこれからは忘れないだろう。
医師たちに丁寧に礼と挨拶を済ませ、
私は病院を後にした。2匹と暮らす新居への足取りはとてもとても軽やかだった。

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それからはとても幸せに満ちた生活を送る事が出来た。新居に来た当初、あんこは怯えてしまい、ご飯を食べられなくなってしまったり、みたらしは好奇心のあまり家具の隙間にハマってしまい動けなくなってしまったり。あんこが警戒して鏡を観察している横でみたらしが鏡に突っ込んだり。その度動物病院の医師たちにお世話になった。今では勝手に友人と思っているが、向こうもそう思っていてくれるとすごく嬉しい。新しい会社での仕事も順調で、猫たちの話で友人も結構増えた。友人たちと猫の写真を見せ合ったり、猫の話をするのはとても楽しい。とても充実した毎日を過ごせていた。
…あの日までは。

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ある日の仕事後。2匹のおやつを買いに行ったら、売り切れていて、いつもより遠いショップに買いに行くことにした。
帰りが遅くなるのはとても心苦しかったが、おやつをあげた時の2匹の喜びようを想像して迅速に買い物を済ませ、帰宅した。
「ただいまー」
鍵を開けて部屋に入る。いつもならみたらしが勢いよくダッシュで、あんこはゆっくりとのぞき込んでから出迎えてくれるのだが、
今日は違った。2匹ともでてこない。
もしかして2匹に何かあったのかと、
ヒールを脱ぎ飛ばしながら部屋へ飛び込んだ!「みたらし!あんこ!!」
そこには─
青く光る円形の模様が2匹の下に描かれていた。「これは…!」
円形の模様はその周囲に透明な壁のようなものを発生させているらしく、みたらしはその壁にバリバリと爪をたてていたが、傷1つつかない。あんこは耳がイカ耳になり、小さく丸まり、ぷるぷると震えている。

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「あんこ!みたらし!」
外から自分も見えない壁を拳で何度も叩く。
大きな音がしたが、びくともしない。
その音にもあんこは驚いてさらに縮こまってしまった。あんこを怯えさせてしまった…
どうしようどうしよう。
頭の中がぐるぐるとかき回される。
目から涙が勝手に溢れだす。
ずるずると見えない壁に縋りつきながら座り込む。すると手に何か違和感を覚えた。
顔を上げるとみたらしが爪を立てている所に壁越しに自分の手があった。
「みたらし!」無我夢中で見えない壁を押し込んだ。すると壁を少しずつすり抜けて中のみたらしに手が届いた!
何とかみたらしの体に手が届くとそのままみたらしを壁に中から救い出すことが出来た!
後はあんこだけだ!みたらしをできる限り模様から遠ざけ、あんこに手を伸ばそうとする。
だが、あんこは怯えきって動けず、さっきできた壁のすり抜けが出来ない。

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「あんこお願い!こっちへ来て!あなたを助けたいの!お願いだから!」
みたらしも後ろから鳴き声をあげ、何か伝えようとしてくれている。私たちの必死さが伝わったのかあんこは少しずつ壁の近くに来てくれた。
─だが。
「えっ!?」「にゃっ!?」
青く輝く模様が一際大きく輝いた。
その光は目を開けていられないほどの閃光。
咄嗟に自分とみたらしの目をかばい、
閃光がおさまったあと、目を開くとそこには
模様もない。あんこもいなくなっていた。
「…え」
私が呆然としている横を通り、みたらしはあんこがいたところをペチペチと叩いて首をかしげている。彼にしては小さく不安げににゃあ…と鳴いた。
私はみたらしをゆっくりと抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。彼の温かさが少しずつ安心感と冷静さを与えてくれた。しばらくそうしていると
みたらしが私に軽く猫パンチをしたので彼を下ろした。そして私は呟く。
「これって…異世界誘拐…だよね?」

─猫と元社畜と異世界と─
〜序章〜 おわり

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