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星の輝きを背にしたその姿は影になっていて、表情を伺うことはできない。
夜の風が"とばり"のような黒髪を乱した、桜貝を思わせる唇が小さく動き、何かを呟いたがそれは吹く風の前、誰かに届くことなく散っていった。 -
老婆はメリーの名を呼んだ。
もう何度となく繰り返し繰り返して名を呼び続けたのだろう、その声は掠れ嗄れて"すきま風"のようにか細く、もしメリーが間近にいたとしても聞こえることはなかっただろう。
メリー、メリーや。もう日が暮れるよ。
お家に帰ろう、おまえの好きな温かいシチューがあるよ。
老婆の目はもうほとんど見えていない。
いま、彼女は村の中を彷徨っていると思っているが。村と森との境界である防柵を彼女が越えてから三十分以上が経っていた。
夜の森の中、メリーの名を呼びながら、より森の奥へと老婆は歩んで行く。
メリー、メリーや。どうか返事をしておくれ。
返事はない。未来永劫メリーが老婆の声に応えて返事をすることは、することだけは決してない。
夜が深まる、月こそ出てはいないが空に輝いている星が老婆の姿を"ぼんやり"と闇に浮かべていた。
星明かりの下、覚束ない足どりで森の中をよろよろと進む老婆
その姿を空から見つめる影があった