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「ああそうだ、忘れていました 少しお願いがあって」
「なんでしょう」
「血なんですが、次から色をつけて欲しいんです。この間なんだか体がベタベタするなあと思ったら足の指が数本取れていて、そこから漏れていたんです」
「なるほど、何色にしますか?」
私の言葉に、ほんの数秒だけ彼は口を閉ざした。小鍋の中のシロップが沸騰する音だけが部屋にこだましていた。
「色、ですか」
「食紅で色付けを行う形になるので……何色でも選べますよ」
「そうですね………いや、…やっぱり赤色でお願いします」
私はカバンから「食用色素 赤」と書かれたプラスチックの容器を取り出して、付属の小さなプラ製の匙で中の真っ赤な粉を慎重に取り出し、小鍋の中にほんの少しだけ入れた。シロップはあっという間に赤色に染まった。 -
「それは良かった。やはり緯度が高い所は違いますね」
私はそう返しながら、小鍋の中に計量しておいたグラニュー糖100gを注いだ。
最近、お菓子になってしまう人が増えている。そのまま体が人型にくり抜かれたジンジャークッキーみたいになってしまう人もいれば、彼のように体を構成するすべての組織がお菓子になってしまった人もいる。
亜寒帯の夜はすこぶる寒い。気温がマイナス5度を下回る日すらある。だが体のほとんどが生菓子でできている彼にとってはむしろその気温が好都合で、この辺りに暮らすことを薦めたのも私だ。