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  • 大晦日が近付いて参りました。
    父さん母さん、僕達兄弟は今日も仏壇の前で並び、日課の“タヌキ呼び”をしています。二人が旅立たれてから五回目の正月、今年も村の皆で餅を焼いて食べるのでしょう。兄さんは相変わらず歌が苦手ですから、手持ち太鼓でデンデンやってます。僕はいつも通り歌ってます。声を張るのは楽しいです。
    「タヌキ様の好物はー!甘いもんに決まっとるー!」
    「なぁ。今夜村を出るぞ」
    仏壇に向かって歌いながら、僕は目だけ隣の兄さんに向けました。いつも通り太鼓をデンデンやっています。村を出るとは?急に旅行へ?
    「正月は集会所で夜通し飲まされて拘束されるだろ。年が明ける前に出る。今夜出る。ずっと準備して来た」
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  • スレ主(Vp7oGJ)2025年12月29日
    僕は歌い声を張り続けます。家の中とはいえちょっといつもと違うことを言うと村の人が心配してやって来ます。だから兄さんはこのタヌキ呼びの時を狙って今僕にこんな話をしているのでしょう。
    「この村おかしいんだ。タヌキ信仰してんのなんてこの村だけだ。俺達は普通に生きよう」
    兄さんは僕の表情を読み取り静かな早口で説明してくれます。父さんと母さんの位牌を手に取ると、さっさとタヌキ様のステッカーを剥がして丸め畳に投げ付けました。
    何が普通なのか僕には今ちょっとわからないけれど、兄さんの言うことはいつだって正しかった。僕達は雪が降り頻る青白い夜を駆けた。