• CUC6lb4月9日
    風に吹かれて宙を舞うビニール袋を撮ったら、世界が停止した。

    もともと人気のなかった公園で、彼女は硬直する。一体どうしてこんなことになったのだろうか。先ほどまで風にそよいでいた桜の枝も、夕闇の道路を走っていた車も、全てが動きを止めている。真っ白なビニール袋も、海を漂うクラゲよろしく宙に浮いたままだ。
    まるで自分の方が、写真の世界に迷い込んでしまったかのようだった。
    異世界転生を夢見ることはないが、まさか時間の停止能力に目覚めてしまったのだろうか。いやもしくはこのビニール袋が特殊なのか。そう思って彼女はビニール袋に触れてみたが、特に何も起きなかった。かさりという軽い音を立てただけで、相変わらず世界は静まり返っている。地面に伸びる遊具の影だけが、ひたすら長い。
    常日頃ならパニックになっていたかもしれない。だが今日は尋常でなく疲れていた。驚きつつも「まあ人生長いんだからこんなこともあるかもしれない」と思うくらいには。
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  • スレ主(CUC6lb)4月9日
    まあいいかちょっと時間が停まってるくらい、せっかくだしちょっとくらい休んでもバチは当たらないでしょ、最近疲れていたし。次々とそんな言葉を脳内で並べて、ベンチに腰を降ろす。次いで宙を仰いだ。

    「……桜、綺麗だな」

    ぽつりと呟く先には、夕暮れに滲むような薄紅の花弁がある。もっと上を見れば、夜空に瞬く一番星と、その傍らに小さく浮いている飛行機が見えた。

    「いいなあ」

    思わず言葉がこぼれる。旅行なんてついぞ行っていない。それこそ最後に行ったのは年単位で前だと思う。あまりにも仕事が忙しすぎるせいで……と考えて、ため息をついた。視線を目の前に戻せば、やはりビニール袋が宙に浮いている。
    このビニール袋も本来なら、あのまま風に吹かれて飛んで行ったのだろうか。ここではない、どこか遠くに。あまりにものんびりと宙を漂っている様をいいなと思って、思わず写真を撮ったらこんなことになったわけだけど。

    「……ビニール袋でさえどこにでもいけるのに、人間ときたら」
  • スレ主(CUC6lb)4月9日
    返信先: @自分 ついそうぼやいて、二度目のため息をつく。だがふと、彼女はそこで思い至った。

    「旅行、いけばいいんじゃね?」

    何と言っても、世界は今時間が停まっているのだ。つまり好きなだけ寝ていてもいいし、好きなだけ遊んでもいいし、好きなだけどこに行ってもいい。これ以上時が進まない以上、仕事が追加されることもないのだから。
    まあ流石に飛行機を使うような旅行ができるとは思っていない。でも歩いて行ける場所なら、何とかなるのではないだろうか。何かこう、昔の人も徒歩で旅してたはずだし。

    「よし、そうと決まれば!」

    彼女は勢いよくベンチから立ち上がった。そうして歩き出そうとして、ふと背後を振り返る。相変わらずビニール袋は、真昼の夢みたいに浮かんでいた。
  • スレ主(CUC6lb)4月9日
    返信先: @自分 一瞬逡巡してから、彼女はビニール袋をそっと引っ張る。するとビニール袋は宙に浮かんだ形のまま、ふわりと彼女の元に移動した。それ以降は手を離しても、見えない糸で繋がれたように、彼女の背後にのんびりと浮かび続けていた。
    ゲームのカーソルか何かみたいだな、と思いつつも、道連れができたようで悪くない。とりあえず行けるところまでいこうと、彼女は足取りも軽く歩き出した。