• 雪かきの映像を背に海に行こうと誘ってくるような人だった。
    まんまと一緒に乗り込んだ電車の中にひしめき合う顔はようやっと帰路につく安心でむしろ強張っていて、私達だけが腑抜けた顔をしていた。
    「いやー、寒いねぇ」
    へらりと笑う口元はマフラーで見えないけれど、覗く鼻のてっぺんが赤くなっていて、私はその事ばかり気にしていた。

    「やっぱあたし逆張りの女だからさ」
    あはっと笑って砂浜に天使を描く人は、むしろこの季節を誰より謳歌しているように見えた。
    私が持つ端末のライトに照らされて、頬を砂まみれにしたまま翼が生えていそうな無邪気な顔で笑う人が、少し恐ろしかった。
    「ね、このまんまここにいたら朝日とか見れるのかな」
    「……その前に風邪ひくと思うよ」
    「やっぱムリかなあ。方角もわかんないしねぇ」
    あっさりそう言う人が本当に天使で、今降る雪が彼女の羽根だったなら私は物語にするのにと思う。
    彼女が私の空想上の存在である方がきっと納得がいくから。
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