• 「この花をどう思うね?」と年輩の日本人が赤い花を見せて金髪の西洋人に聞く。「とても面白く、美しい花だと思いますよ、ミスター」と流暢な日本語で答える。「これは、彼岸花というのだが」。「オー、それはあまり縁起がいい感じがしないです、ミスター」。「やはりそうか。べつに曼珠沙華という呼び名もあるのだが」。「フーム、それもなにか、日本語でなんといいましたか、抹香臭い、でしたか、若者には受けないでしょう」。「ならば、何という名前にすれば売れると思う?」と日本人。「ウーン、そうですね、学名ではリコリスといいます。どうですか? 日本語でかわいい響きがあると思いますよ、ミスター」。「悪くない。それではこれを今後、リコリスとして流通させよう。品種改良して、ピンクの花なんかもいいんじゃないか?」。
    ……かようにして、彼岸花はおしゃれなリコリスとして花屋に並んでいる。白い花、ピンクの花もある。名前を変えられた花がどう思っているかは、誰も知らない。