• 通学路のあぜ道に人が落ちていた。
    稲穂のような金髪は無造作に結われており、くたくたになった白シャツのあちこちに乾いた泥が付いている。下半身にはトランクスしか身に着けておらず、そこから伸びる小麦色の足からはゴム長靴が脱げかけていた。
    すわ行き倒れか。はたまた変質者か。こわごわ覗き込むと、胸になにかを抱え込んでいるのが見えた。麦わら帽子だ。
    ひまわり柄のリボン、色とりどりのマジックで落書きされた頭頂部、不格好な切れ込みの入った広いつば。
    思わず息を飲んだ。忘れもしない、それは小学生の俺が昔じいちゃんに連れられて行った田んぼで失くした麦わら帽子だった。
    立ち尽くす俺の前で男が二、三度唸り声を上げる。俺が逃げ出すよりも、向こうが目を覚ますほうが早かった。
    大丈夫ですか、と話しかけた俺の言葉を遮って男が一言叫ぶ。
    「やっと見つけた!」

    このときの俺はまだ知らない。この男が田んぼの神様ということも、麦わら帽子を返すためにずっと俺を探していたということも。
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