• 部屋を出るとじわりと汗が滲んだ。踊り場から見る風景は相変わらず目が痛くなるほどに白く、目を伏せてもくらくらとした感覚が鈍く残る。振り切るつもりで階段を降りても音だけが虚しく響いた。
    フードを被り、黒い傘を差す。そんな風に強過ぎる日差しを避けなければもう外を歩くことなど出来ない、この季節はかつて「夏」と言った。遠い昔の話だ。
    今は年がら年中燃えるように熱い。そういえば古い映像でしか見たことのない冬景色の色だけはこの街に似ていた。
    だけど此処はただ渇いた白があるだけだ。厳かな美しさなど無い。現に、もう廃墟になりかけている。
    どうかしていると自分でも思う。
    それでもこの時期にしか見れないものがあった。白い世界に浮かぶのだ。見知らぬ風景。楽しげな喧噪。とうに失われたもの。誰かが「懐かしい」と言った。本当に見たこともないくせに。
    どうかしてしまった人達がいる。
    足元に転がる無数の黒い傘。影のような残骸。自分もいつかその一つになる。
    成れる日を待っている。
返信の受付は終了いたしました。
  • 良い。じりじりと肌を焦がす熱さ、目を焼くかつての幻想が伝わってくる。寂寞感があるのにどこかふっと軽やかな気配も感じる気がする
  • スレ主(uyiuzY)2022年6月21日
    返信先: @oX9vYGさん うおお、表現したかった感覚を読み取ってもらえてすごく嬉しいです、ありがとう…!