• 30XX年。
    芸術は科学の分野になっていた。

    かつての人類は己の手でイメージを描画していたらしい。
    しかし今は違う。
    単語入力でラフ案を固め、脳波を読み取らせることで詳細を固める。するとAIが脳内イメージ以上の高品質な絵を描き出す。

    計算され尽くした構図、配色、バランス。
    センスとは才能だと言われた時代もあったそうだが、人の心理が科学で解明できる今は、心を動かすセンスは計算で生み出せる。
    人間は機械に敵わない。

    しかし私には異端の知人がいる。
    今の時代に自力で絵を描く異端者だ。
    「愛を込めて描いた絵はわかるんだよ」
    あいつは口癖のように言う。
    果たしてそうだろうか。
    人の心を動かす計算式が解明された世の中で、愛が何になるのか。

    それでも、鬱陶しいなと思いつつ私が知人と縁を切れずにいるのは、その作品に少なからず興味があるからだ。
    初めは単なる好奇心だったが今は何故だか目が離せない。
    「愛、ねぇ」
    計算から外れた歪みを含む知人の作品を見ながら、私はぽつりと呟いた。