• "天使のような歌声"
    そう呼んでほしかった。
    天使の歌声はきっと美しい。
    だから、美しい声の人に、天使を重ねるのだ。
    私もそうなりたかった。
    天使のように。
    いや、天使になりたかった。
    毎夜のように歌い、知識を得て、技術を磨いた。
    歌声が誰よりも透き通るように。
    立ち込めた雲から差す一筋の光のような、真っ直ぐな声になるように。
    歌い続け、そしてある日、私は歌いながら涙を流していることに気がついた。
    自分の歌声に心が震えている。
    こんなに美しい声、聞いたことがない。
    ああ。
    わたしの念願は叶ったのだ。
    そう思った時だった。
    空から愛らしい声が聞こえた。
    「まあ、素敵な歌声。是非頂きたいわ。」
    歌声がぶつりと途切れた。
    声が、奪われた。
    その瞬間に理解したのだ。
    天使の歌声が美しいのではない。
    人間の美しい歌声を、天使が奪っていくのだと。
    人間が"天使のよう"にしかなれないのは。
    誰よりも優れた歌声を持つものは皆、奪われていくからなのだ、と。
    どす黒い雨雲から、一筋の光が刺した。
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