• 新人類

    ある朝、彼女が顔を洗ったあとに鏡を見ると額が少し膨らんでいることに気がついた。それも2箇所。
    それは日を追うごとに姿が顕著になり、やがて彼女の額からは2本の立派な角が完成した。昔話の鬼のようだ。

    異人化はここ数年流行し始めた奇病だ。人によって症状が異なり、手にウロコが生えたり目の色が変わってきたり、耳の形が尖ってきたりする。ある国が人体実験を繰り返し完成間近のウィルスが漏れ出したなんて噂もあるが、真実は一般人には知らされていない。

    今のところ、この病は防ぐ手立てがない。
    死亡率が極端に低く、異人化した人間は何かしらの能力が爆発的に上がるため異人化が発現するのはむしろ歓迎されているきらいすらある。

    異人化した人はなぜかそろって陰気で無口になるという噂があったが、彼女にはその気持ちが痛いほど分かっていた。鋭く伸びた爪を掌に食い込ませ、溢れ出しそうな殺戮衝動を抑える。人類に悟られてはならない。
    別人のような「私」は鏡に微笑みを浮かべていた。
返信の受付は終了いたしました。