• ここの乗り場にはひっきりなしに電車が来る。バスが来る。船も飛行機も車も馬車も来る。乗り込んでいく人々はみな一様に怒ったような顔をしていた。弱い者は、いつまで経ってもどの乗り物にも乗ることができない。年寄りは順番を追い抜かされ、子供はそのちいさな足を踏みつけられ、病人は行く手を阻まれる。
    「お先にどうぞ」
    老婆が、か細い声で言う。人々はさも当然だという顔をして乗り込んで行く。
    「おさきにどうぞ」
    子供が、幼い声で言う。人々はほとんど無視するようにして足を進める。
    「おさ、き、に、どう、ぞ」
    病人が、息も絶え絶えに言う。人々はいっそういかめしい顔をして扉をくぐる。
    ここに来た乗り物がどこへ向かうのか、気にする者は誰ひとりとしていない。どこに行くかではなく、目の前の乗り物に乗ることが目的だといわんばかりに、必死の形相をして乗り込んで行く。三人は、一便、また一便と乗り物を見送る。これが復路のない道行きなのだと、人々はまだ気づかない。
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