• 「外に出たい」
    四角い窓に抜き取られた平凡な景色を、まるで美しい絵画でも見ているかのように目を細める。
    「きっと素敵でしょう。太陽の下を好きなだけ歩けたなら、誰だって幸せになるはずよ」
    「四季折々に表情を変える花たちを、いつか写真に撮ってみたいの」
    「たくさんの人と出会って、たくさんたのしいおはなしをしてみたいわ」
    外の世界に夢を抱く彼女は、その欠片にさえ触れられないままその生涯を終えようとしている。
    彼女の「無知」というフィルターのかかった外の世界はいつでも美しく、希望に満ち、溢れんばかりの陽光を持って輝いていた。
    彼女は知らない。
    外の世界は希望よりももっと薄汚れたもので溢れ、人間はいつだって心の中にドス黒い何かを飼っている。
    たとえ彼女が夢を叶えたとて、抱える純真な願いは現実で汚れてしまうだろう。
    彼女の夢が黒く姿を変える前に、命の日が消えてしまうことを、喜ぶべきか、悲しむべきかも分からないまま。
    今日も今日とて、彼女の夢を否定できないでいる。
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