• 「私が笑えない世界が正しいのでしょ?」
     と、目の前の魔王は言った。確かにそうだ。悪は正義に倒され世界は平和になる。よくある話だし、これからそうする予定だ。剣を強く握り締め、魔王に向かって構える。例え相手が華奢な少女だとしても、世界を平和にするためなら。
    「動揺はしないのね」
     まあいいわ。と魔王は玉座から降り、僕の前に立つ。ゆるやかな微笑を浮かべたと思うと、あろうことか跪いた。
    「やるなら一思いに、ね」
    「……どうして」
    「……それが皆にとって幸せな話だからよ」
     その声が、ある子どもを思い出させる。
     大人たちが飴を配っていた日、手違いがあり、数が足りなくなってしまった。皆がねだるなか、ある子どもが突っぱねた。甘いものは嫌いだからと。でも知っている、その子は甘いものが大好きで、その声はひどく震えていた。
    「僕は勇者だ」
    「ええ、だから魔王を」
     ――そういえば、僕が勇者を目指すようになったのは。
    「違う、勇者ってのは、泣いてる女の子を助けるんだ!」
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