• 魔法使いはお腹が空いた。
    山にある果物や動物だけでは賄えない空腹を、森に迷い込んだ子供で満たそうとした。
    ヘンゼルとグレーテルに焼き殺された、あの魔女ほど愚かではない。
    捕まえた子供にバレないよう、食事を振る舞い、食うのを確かに眺めていた。
    「ああ坊や、可愛い子。
    もっともっとたくさんお食べ。
    大きくなっても変わらずに、私の傍にいればいい。
    私が愛してあげようね。」
    子供が逃げようなどと考えないように、魔法使いはいつもそう子供に語りかけた。
    子供は大きくなった。
    けれど、食べる量の割に、なぜだかあまり肉は付かなかった。


    魔法使いは坊やから少年に変わった子供の傍にいた。
    「ああ坊や、可愛い子。
    もっともっとたくさんお食べ。
    大きくなっても変わらずに、私の傍にいればいい。
    私が愛してあげるから。」

    子供は病に罹り、口減らしに捨てられた。
    食べても食べても力がつかず、力仕事にさえ使えない。
    親は彼に呆れ果て、魔女を殺すグレーテルさえ与えないまま、夜の森の餌にした。

    魔法使いは怒り狂った。
    「話が違う、この嘘つき。
    お前は骨と皮ばかり。
    食べても美味しくないんじゃないか。」
    だったら家事くらいしてごらん。
    寝転がってこの役立たず。
    さっさと口を開けたらどうだい、我儘言わないで食うんだよ。
    毎日毎日言ったろう。
    逃げずに私の傍にいろ。
    私から逃げてどこに行く。

    病の治療法など知らない魔法使いは、もう口さえ開けぬ少年の口に、ただただスプーンを押し付けるばかりだった。
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