• 「すきだ」
     またか……。そう思い、私は小さく溜息を吐いた。
     この高校に赴任してから約三年。ようやく仕事にも慣れてきて、恋人との関係も良好そのもの。まさに公私共に絶好調……の、はずだった。彼という悩みの種が現れるまでは。
     彼は、私が初めて受け持ったクラスの生徒だ。成績も素行も決して良いとは言えない。所謂、問題児である。それだけならまだ良い。私を最も悩ませているのは、彼が私を呼び止める度に「すきだ」と口にするところだ。
     勿論、何度も注意した。彼にとって私は教師であり、私にとって彼は生徒である。年齢だって十歳くらい離れている。教師と生徒、歳上と歳下。だが、いくら説明しても「歳なんて関係ないだろ」とでも言いたげな顔をして、一向に聞き入れてくれないのだ。
     今度こそ、お互いの立場を分からせなければ……。そう思い、私は彼の顔を真っ直ぐに見据えた。
    「だから、何度も言ってるけど……」
    「あ?」
    「先生を付けなさい!」

    掌編小説「隙田先生」
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