• 「貴方の心臓が欲しい」
    「貴方の目玉も、鼻も、口も」
    「手も、足も、全部欲しいの」
    長い睫毛が揺れて、ポロポロと落ちていく涙は透明だった。
    平日、昼間。喫茶店にて、向かいに座る姿は見慣れていて、親しくはないものだった。
    俺が引っ越す前から隣の部屋に住んでいて、時折挨拶を交わしていた程度の関係だった。
    「……貴女は、誰ですか?」
    多分、適切な問いではなかっただろう。
    だが、俺の手を引いて走り出した背中に、普段は馬の尾のようにしている髪が広がって揺れるのを見て、これは誰だろうかと思ったのも確かだったのだ。
    店員が気まずそうに置いていった珈琲を啜りながら相手の言葉を待つ。
    「もしかして俺を喰うんですか?」
    まさか漫画じゃあるまいしと思いながらも訊いていた。
    首を、振る。口紅を引いていなくても赤い唇が笑った。
    また、落ちる涙。
    「すき……すきなの、おねがい……」
    何を願われているのか分からないまま、俺はもう引き返せない所にいたのだろう。
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  • スレ主(.QsouR)2022年6月28日
    診断メーカーの140文字で書くお題ったー様からお題をお借りしました