•  カランコロン、軽快なベルと共に店内へ。
    「マスター、いつもの」
     返ってきたのはため息と一杯のアメリカン。気のいいマスターとしてご近所で有名だってのに、俺にだけは塩対応。まったく、よほど猫をかぶるのが上手いらしい。
    「ほら、もう開けていいぞ」
     振袖姿の娘がニコりと笑って千歳飴の袋を開けようとする。あまりに手間取るから、我慢できずに手を出した。出してから、ああ、こういうところが駄目だってよく叱られたんだ、と思い出す。
    「あ……っ!」
     バラバラと飛び散る千歳飴。あれ、七五三の飴って、一本の長い棒じゃなかったか? ひとつひとつフィルムに包まれた、手のひらサイズの飴を拾い集めながら、思い出す。
     思い出すのは苦手だ。ここ数年、特に。
    「──さん」
     マスターに名前を呼ばれる。顔を上げると、カウンターの向こうに大きな鏡。そこにはマスターの後ろ姿と、一杯のアメリカン、そして疲れきった顔の俺が映っていた。
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