•  炬燵の上に置かれたのは縦線の入った妊娠検査薬だった。
    「…なんか、お正月とクリスマスが同時に来た、って感じだね」
    「そりゃただの年末年始じゃねーか」
    「あ、そっか」
     彼女は笑いながらももう愛おしげに腹を撫でている。束の間が空いたのがムズムズした俺は炬燵に積まれた蜜柑を一つ取る。少し力を入れると蜜柑は二つに裂けた。酸っぱい香りが立って、酔いきった頭が少し冴えた。
     考えなければならない事は山積みである。当面の生活費のみならず、今後は彼女の腹にいる我が子の金の工面までしなければならない。ガキの頃の青春を引きずったままギターを鳴らすロクデナシを、彼女の両親は子を持つ親、或いは最愛の娘の伴侶として認めるだろうか。その前に、俺には果たすべき誠意があるのではないか。
     俺は蜜柑の残り半分を彼女に差し出した。
    「俺はこんなだけどな、お前らだけは幸せにするからな」
    「…うん」
     蜜柑を齧った彼女が微笑んだところで、最後の除夜の鐘が鳴った。