• サモエドという犬種がいることを知ったのはいつのころだったか覚えていない。漠然と大人になったらサモエドを飼おうと思ったことだけ覚えている。サモエドがどんな大きさで、どんな色で、人に懐くのかどうかも知らなかった。ただ、サモエドという語感に惹かれた。
    ずいぶん月日が経った。あるいは、そうでもないのかもしれない。自分も犬を飼えるだけの場所やお金を手に入れた。いよいよ自分もサモエドを飼えるのだと思った。思って、ペットショップに行き、「サモエドを下さい」と言った。
    「こちらの仔はどうでしょう」と見せられた犬は、自分の中のサモエドと違って、なにか、普通の、犬だった。「思っていたのとは違うので、やめます」とは言えなかった。
    自分はいま、サモエドを飼っている。サモエドを飼っているといえるかどうかわからないけれど。