• 「何を考えているんですかっ!?」
     凄まじい剣幕だった。植え込みに身体を沈めたまま、俺は小さく「ごめん」と呟くことしかできない。
    「幽霊になるのも才能が要るんですっ! 貴方みたいに、こんな……こんな馬鹿なことをする人、絶対に無理に決まってますっ!」
     ぐうの音も出ない。事実、屋上から飛び降りたにも関わらず、こうして擦り傷程度で済んでいるのだから、きっと彼女が言うように俺には才能がなかったのだろう。仮に成功していたとしても、彼女のようにふわふわと浮かぶことすらできなかったかもしれない。
     彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。俺に才能があったら、それを拭うことができただろう。だが、そんなことをしても今以上に彼女を悲しませてしまうだけだと、俺はもう知ってしまった。
     植え込みの中で大の字になったまま、ぼんやりと夜空を見上げる。
     嗚呼、今夜も月が綺麗だ──。彼女の嗚咽を聞きながら、俺はゆっくりと瞼を閉じた。
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