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ゴールデンウィーク明けの水曜日。営業開始直後の9時5分、黒いマスクとサングラスで顔を隠した男が銀行に押し入った。手に持つ拳銃を振りかざし
「全員動くな! 金を出せ!」
と叫ぶ。客と行員たちは凍りつき、カウンターの後ろで震える。林は膝を抱え、中村でさえ青ざめて黙り込む。
その時、扉が勢いよく開いた。
「おはようございま…へっっっくしゅい!!!」
佐々木の派手なくしゃみがロビーに響く。
飛沫が強盗の顔に直撃。
「汚ねえな!」強盗が顔を歪める。
「あー、コロナかも」
佐々木は鼻をすすり、能天気に笑う。
「なんだと!?」強盗の声が震える。
林が震えながら呟いた。
「今朝、佐々木さんから体調悪いから遅れるって連絡きました…」
彼女の青ざめた顔が、信憑性を増す。
「本当にコロナだったんだ…」
「そういや、顔色悪いぞ…」
他の行員たちが囁き合い、強盗は拳銃を握る手に汗をかく。 -
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悠斗の近くにいた彼は、飛沫を浴びた恐怖で震え上がる。強盗に来て、死病に感染するなど想像もしていなかった。
「ち、チクショー…お前、絶対許さねえぞ!」強盗は震える声で捨て台詞を吐き、慌てて逃走。ロビーに静寂が戻る。
「いやー、危なかったっすね〜」
佐々木が頭を掻きながら近づくと、行員たちは一斉に後ずさる。油断は出来ない。コロナの疑いは晴れていないからだ。
「お前、コロナって言っただろ…」
中村が恐る恐る言う。
「冗談ですよ、冗談!」
佐々木は笑うが、誰も信じない。
「信じられるか!」
中村の声に、他の行員が無言で頷く。
「仕方ないな〜。じゃあ測りますよ。これでコロナじゃないって分かるでしょ。林さん、体温計貸して」
佐々木が手を伸ばすと、林は嫌そうに非接触型体温計を差し出し、素早く手を引っ込める。感染を恐れているのだ。 -
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佐々木は額に当て、ピピッと音が響く。
「35.5度!」
皆が安堵の息を吐く。だが、係長の目が光る。
「ってことは仮病じゃないか!」
「いや、朝はちょっと熱っぽかったんですよ〜」
佐々木の言い訳に、中村の説教が始まる。
「お前、毎度毎度…!」
説教が長くなりそうなので、林はこっそり警察に通報した。
強盗は病院に駆け込み、コロナの検査を受けた。結果は陰性。不貞腐れて病院を出たところで、待ち構えていた警察に逮捕された。
事件後も佐々木の遅刻癖は直らない。翌朝も9時15分に現れ「じーさんが道に迷ってて、送ってったんですよ」と笑う。中村は「クビだ!」と怒鳴るが、何故か解雇には至らない。行員たちは呆れつつ、どこかで思う。あの日の佐々木のくしゃみが、皆を救ったのだ。
波風銀行のロビーでは、今日も時計の針が静かに時を刻む。佐々木の笑顔と中村の怒鳴り声が風に混じる。 -
佐々木は毎朝遅刻する。今日も9時10分、ガラス扉を押し開け、のんびり入ってきた。「おはようございまーす」と明るく挨拶するが、係長の中村の雷が落ちる。「佐々木! また遅刻か!何度目だ!」
「いや〜、ばーさんが重い荷物持ってて、見てられなくて運んであげたんですよ」佐々木は頭を掻き、笑う。
「言い訳するな! 次遅れたらクビだぞ!」
中村の怒鳴り声がロビーに響く。
周りの行員たちは呆れ顔だ。「また佐々木の言い訳か」と囁き合う。特に真面目な行員の林は、ため息をつきながら書類を整理していた。