• 『湿度』

    空が巻層雲に包まれると、あの男の中弛みした湿り気を思い出す。曰く、それは真心と言うが、私の知る真心とまるで違うので、おそらくはエンコードかデコードのどちらかが誤っている。
    彼が傍にいたいと言ったので、私はそれを容認したが、与えられたのはじめじめと纏わりつく不快感であって、温かい抱擁ではなかった。寒気。執着の熱源は彼自身ではなく、私から吸い取った熱を放射しているに過ぎない。その熱を以て彼は、私の心さえも奪い取ったのだと勘違いした。
    しかして彼は、聞き分けが良くマイナスの熱もよく受け取った。私が嫌だと言えばやめ、私が拒めば離れ、私が泣けば今更な熱を返そうとするので、とうとう終わらせることにした。
    彼は何も言わなかった。
    待ち望んだ独りだ。

    ああ、気持ちの良い乾風。
    気持ちの良い乾風。
    気持ちの良い乾風。

    ただ、気持ちの良い乾風だけが吹いている。