• 「今日の面接、微妙だったかな」
    就職活動の真っ只中、私は苦戦していた。
    周りは次々と内定が決まり始める中、私だけが遅れをとっていた。
    正直言ってかなり焦る。
    余計な情報を入れたくないがために、友人と繋がっているSNSは見ていない。

    学生時代のちょっとしたエピソードに脚色を加え、自分がいかに素晴らしい人間かをアピールする、私はそういったことが苦手だった。
    綺麗なことばかりを書き連ねた履歴書を見て思う。
    ここに書かれているのは一体誰の話だろう。
    私なのに私じゃない。
    面接の間だって、果たしてあれは私と呼べるのかわからない。
    まるで別の人格が憑依して、上澄みだけで喋っているような感覚だ。
    個性ばかりが求められて、平凡な私は求められない。だから履歴書の中身も面接の間も、そこで本当の私は息をしていないのだ。

    自宅に着いてパンプスを脱ぎ、スーツを脱いで、一日中ひっつめていた髪の毛を解く。
    身体中が軽くなる。
    「ああ、本当の私は今の私だ」
    人間の血が通い始める感覚がした。