• 私は両手を目一杯広げたよりも大きいガラスの箱の中で暮らしている。親も、先生も、クラスメイトも、誰一人箱の存在には気付かないのに内側に入ってくることは決してなかった。それはとても気楽で、どこかーー……。
    浮かびかけた想いに蓋をして、いつも通り教室じゃない部屋の扉に手をかける。カラカラと開いた先に見えた人影に思わず後退った私をちらりと見て、何かを耳打ちあいながら歩き去っていく人達から隠れるように縮こまった。

    「あれ、君もケガ……はしてないね。顔色悪いし貧血とか?」

    妙に馴れ馴れしい調子で近付いてくるその人の右手の親指には、なんの変哲もない絆創膏が巻かれていた。否定する暇もなく白いベッドに押し込まれ、丁寧に布団をかけられた。

    「じゃあ、お大事に」

    その人はそんな言葉を残して消えてしまったけれど、ほんの微かにガラスが溶け始める音が聞こえたような気がした。