• 私は卵を生む。時々だけど。
    これはとっても秘密のはなしで、卵が生まれる前日、私は普段愛しく思うものをどうしてか酷く疎ましく感じてしまう。
    まるで世界に自分の足跡が残らないような気持ちで、ぶわぶわとふくらむ布団にもぐり、糸がほぐれて落下するような感覚をなぞりながら眠る。
    そんな夜に見る夢はいつも同じだ。
    宇宙みたいに深い深い空間の中に私は、一人ぽつんと立っている。私はその見知らぬ宇宙の中で当然のようにゆっくりと両手を合わせる。何かに祈るように、何かを守るように、目を閉じる。
    そうしてゆっくりと目を開けると世界は何処までも白く変わっていて、私のさして大きくない手のひらにはキラキラと不思議に輝く卵がひとつ。
    目を覚ますのはいつも決まってそのタイミング。
    そうして、起きた私の目の前には卵を生んだ朝が何食わぬ顔で転がっているのだった。