• 夕方の曇り空、ロンドンの夜霧は深い。ヴァイオリンを弾き続ける彼。冷めたカップ。ソファでアイマスクをして目をつむる。流れる音のとまらない試行錯誤は時計のように前に進む。彼の気質にストラディヴァリウスはよく似合う。
    起き上がる僕に目もくれない。温かいお茶はハドソン夫人に頼めない時刻だ。一階(日本の二階)からお湯を持ってきた。棚のグラスをとり、ウイスキーを割る。
    香りと湯気に顔をむけたホームズへ、無言で差し出す。細い指、両手でそっと包むように抱えて少し口にする彼。ホームズ。大丈夫だよ。今日は僕もここにいるから。
    ワトソン