• 耳と尻尾が生えた長身の青年は、僕に呟くように話した。いつもは明るい彼だが、今日は元気がないようだ。

    「雨は嫌いなんだ。濡れたら寒気がする。身体が火照って動けなくなる。それに……。」

    目を伏せた。顔が異様なほど青ざめている。
    人目を引く銀色の大きな尻尾も、ふわふわで柔らかそうな耳も、今はぐったりと項垂れたままだ。

    「どうして雨が苦手なの?」
    僕は彼に問いかける。
    しばらくしたあと、ぽつりと呟いた。

    「怖いんだ。」
    「雨に濡れたら、俺じゃなくなってしまう。」
    彼の身体は、小刻みに震えている。

    「別人になってしまうんだ。何もかもが。」
    謎めいた言葉をつぶやいた。

    「頼む。」
    許しを講うように跪いた。
    何かに脅えているみたいだ。

    目の前で両手を合わせる。
    彼の身体の震えは一層強くなる。

    「君は俺を閉じ込めないでくれ。」
    「頼むから、別人になってもショーケースに入れて飾ったりしないでくれ。お願いだから。」

    僕は彼の背中をゆっくりさすった。
    最後まで僕を見つめたままだった。