• 俺は何度も同じ女性と出逢っている。
    最初は隣に越してきた一家の女の子だった。
    母親にそっと背を押されては恥ずかしそうにはじめましてと挨拶する少女を俺は幼心ながら可愛らしいと思った事を覚えている。
    次は中学時代の転入生だった。
    海がある街から来たのだという彼女は、緊張した様子で自己紹介をした後、何故か俺の方を見て笑いかけてきた。その顔をよく覚えている。
    次は大学時代に参加したサークルのメンバーだった。
    控えめな態度ではじめましてと転がす声は、小説で見かけた表現を借りれば真珠のようだった。
    真面目だった彼女はその内通学しなくなった。彼女は何れも引っ越しなどで縁が切れた後新しく現れるのだ。
    次の縁はどうなるのか不安に思った俺は、彼女と再び出逢う前に出会った女性と結ばれた。打算的だったとはいえ、優柔不断な俺の背を押してくれる妻の事を愛している。

    やがて妻は子を宿した。
    「抱いてあげて……」
    妙な確信があった。この子は“彼女”だという。
    「ああ……はじめまして」
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