• その日、世界は突如として混沌に呑まれた。

    己の好きなことをするという確固たる意志を持つ者、それに賛同する者、批判する者、自治を促す者。
    それぞれの主義主張が鬩ぎ合い、空気はまさに混沌そのものであった。

    私は成す術もなく傍観していた。
    私はいつだってそうだ。
    ただ静かにことの成り行きを見守り、鎮静化する時を待つことしか出来ない。
    ただ、あまり長くこの空気が続くのだけは嫌だと思った。誰か、この場をおさめてほしい──そう願った時。

    ある種の神々しさと共に、それは現れた。
    『ちくわぶ大明神』
    この荒々しい空気を物ともせず、颯爽と駆け抜ける様はまさに救世主のようであった。

    誰かが叫んだ。
    「あれは、彼のちくわ大明神の御子孫……!」
    私も耳にしたことがある。
    世界の混沌際に現れ、人々の興味を逸らし、瞬く間に争いを鎮める神のことを。

    「神の子孫、か」
    伝説の神の子孫は、確かに異彩を放ち威厳をもってそこに顕現された。
    私はこの日のことを忘れることはないだろ