• 「はじめまして。隣の部屋に越してきたものです。つまらないものですが、どうぞ」。銀髪に整った銀の髭、きちんとしたスーツ。どう見ても、金のない若い奴ばかりの、このおんぼろアパートには似つかわしくない。それが顔に出てしまったのか、訊ねもしないのに、老紳士は語り始めた。「いや、なに、タイでキックボクサーをやっていたのですが、膝を痛めてしまいましてな。引退というわけですよ。日本は50年ぶりですが、こちらもタイと変わらず暑くなりましたな」などと言う。「そうなのですか。ゴミ捨てなど分からないことがあったら聞いてください」といってドアを閉めた。引越し挨拶の品をあけると、タイ焼きだった。