• 「わたしミニーマウス。大好きよ、ミッキー」
    玄関に立つミニーマウスはそういった。ヤニのにおいが染み込んだ薄汚い茶髪、アディダスのジャージ、底のすり減ったクロックス。そして右手にはトカレフ。
    「まあ、ゆっくり話そうじゃないか……、ミニー。まずは銃を置こう、ね?」
    おれはできるだけ落ち着いた声でそういった。
    「うそ、ミッキーはそんな声出さない」
    ミニーマウスは銃口をおれに向ける。落ち着け、ミッキーはどんな声で喋るんだ? そもそもネズミは喋るのか? ネズミ!
    「ぼ、ぼくはミッキーだよ! 銃は、きらいだよ! ピギィ!」
    奇声をあげるおれ。ミニーマウスの目はじっとりとおれを見ている。
    ミニーマウスはゆっくりと銃を足元に置く。
    「あなた、やっぱりミッキーね? 入っていい?」
    「ようこそミニー!」
    おれはまた奇声をあげた。部屋に入ってきたミニーマウスはテレビで千鳥の深夜番組を見た。終わると「じゃあ帰る」といっていなくなった。トカレフだけそこに残った。おれは疲れた。