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「悲鳴……!自転車の女か?!」
それにしては太い声だった気もするが、状況からしてそれしか無いだろう。
あんなチンピラみたいな髪型の男が深夜に追いかけてきたら、誰だって怖くて叫ぶ。そこまで考えて、俺はぞっとした。
「しまった、これじゃピアス男は捕まるぞ。下手したら俺も」
深夜に女を追いかけ回すなんて、それだけで殆ど犯罪者だ。そして俺も共犯扱いになるだろう。
俺はクズだが、まだ前科だけはないというのに。
パフェの代金は忘れて今すぐ逃げろ、と頭の中でアラートが響く。
麻雀狂いで休学、親に隠れて借金苦、ここに更に犯罪歴が加わるなんて絶対に避けたい。
「だけど、俺が止めなかったら……」 -
「追うぞ!!」
俺と男は、弾かれたように席から飛び出した。
「あっ、伝票……おい?!」
男は支払いの事なんて気にもとめず、外へと走り出してゆく。俺は仕方なくテーブルの上の丸まった紙を拾い、レジに向かった。
「まじかよ、見失ったら……。後で払ってくれるんだろうな?!」
なけなしの現金で支払いを済ませ、釣り銭をひっつかんだ俺は少し遅れて店から飛び出す。
自転車の向かった方角は、駅の方だった。
ファミレスから駅前までの距離を何も考えずただ走ってきた俺は、立ち止まって膝に手をつき、思い切り肩で息をした。
「はっ、はっ、────ッ」
久々にした全力疾走のせいで、ゼエゼエとおかしな呼吸音がする。
額から流れる汗を拭い、ギャンブルの時の冷や汗以外では久々にかいた汗だと気づく。
「……くそ、ピアス男、どこだよ……。」
痛む気管を落ち着けながら周りを見渡すと、少し離れた所から絹を割くような悲鳴が聞こえた。