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「愛ねぇ……。全然ピンとこねぇな」
一人の帰り道、俺は空を見上げてひとりぼやいていた。
妻でも、友人でも、他人でもと運転手は言った。更に犬でも、ハムスターでも、クロッカスでも、とも言っていた。
「クロッカスでもって何だよ。小学校でしかみたことねーよ」
つまりは、何でもいいという事だろうか。
この騒動で知り合ったあいつが、タトゥーに持つのも愛なのだろうか。
「俺の愛って、なんなんだろな」
人に怯えて閉じこもっていた俺には、世界のことも、自分のことも、まだ何もわかっていないのかもしれない。
「大学、戻ってみるか」
そこで何かが見つかるかは分からない。
だけど今の俺なら、なぜだかそれほど怖いことは無いような気がしていた。
ー終わりー -
その声と眼鏡には、しっかりと覚えがあった。
「あれ、確かタクシーの?」
「へへ、俺が呼んだんだ。関係者だったみたいだから」
タトゥー男がにやりと笑って、メニューのタッチパネルを渡す。運転手の頼んだ山盛りのパスタがやってきたときには、俺たち3人はすっかり話し込んでいた。
「じゃあ、アプリやなんかを作ったのは運転手さんだったんすか?」
「ええまあ、私もあの人も、ここらで育った昔馴染でね。小さな子供のころからあの銭湯には連れてかれてましたから、そのよしみで。幸い私はその方面では小器用でしたし」
「じゃあ、タクシーで客に話を広めてたのは……」
「亡くなった奥さんはそりゃあ素敵な人でしたからね〜。あの人の大事にしてたものをこの町の皆の宝にしたいなんて、ロマンがあって手伝いたくなるじゃないですか」
パスタを口いっぱいに頬張ってうっとりとする運転手に、そんなもんかなと不思議に思う。
「結局、人間は愛ですよ、愛。例え相手が何でもね」