• 「はぁ……素敵」
    私は憧れの人の魂をなぞっている。

    今私によって引かれている線は、私のものではない。自分では絶対に描けない線。それが己の手から創造されることに恍惚とした感覚を覚える。

    趣味で絵を描く私はSNSで”神”に出会った。
    着色も絵柄も全てが私の琴線に触れた。私もあんな絵が描きたい。その一心で今日も懸命にトレスする。
    線の癖を、形を、体で覚える。
    トレスは“神”の魂を己が身に宿す為の儀式だ。

    「少しは近づけたかな」
    近頃は手癖で描いても”神”の癖が再現出来る。同じような絵を描けることが嬉しかった。

    そんなある日、神から個人DMが来た。
    「絵柄、真似しないでもらえますか」

    私の絵はいつしか誰から見ても神の劣化版でしかなくなっていた。
    そこに私の魂はない。

    他人から技術を学び、自分の絵柄と融合させ、個性を残す形での成長を目指すべきだったのに。
    真似ばかりするうちに、私の個性は死んでいた。
    自らの手で殺してしまった。

    行き過ぎた憧憬が私の目を眩ませていた。